トルビヨンのことを書くわ。
トルビヨンとはとあるホテルで知り合ったの。
とある、港区のホテルよ。
トルビヨンはね、
つるつるのサテン生地のベストを着ていて、
針金みたいにかたい髪の毛をつんと尖らせていた。
すごくぶっきらぼうな顔つきをしていて、
それがとても、もうたまらなくなるくらいに、
色っぽくて、かわいらしくて、
その首筋に間違ったふりして。
あたし、彼にキスしちゃったくらい。
ほんとうにほんとうに、よかったのよ。彼。
でも仕方ないわね。奥さんがいるんだもの。
デンマークだかノルウェーだか、よく知らないけど、
ギザギザした国よ。
そこで煙突のある大きな赤い屋根の家を建てて、
奥さんを待たせてあるんですって。おとなしい犬と一緒に。
トルビヨンたらね。
愛しているんですって。奥さんをよ。
ばかよね。
ばかで、かわいいわよね。
別にいいじゃない。羽を伸ばしに来たんでしょう?って
あたし、言ったのよ。
そのために飛行機に乗って、
ぐるっと地球儀を遡ってきたんでしょう?
ちっぽけなこの国に、楽しむためにやってきたんでしょう?
スターなんだから。それなりに楽しまなきゃ。
いっぱい楽しんで、すっきりして帰ればいいじゃない。
Is that special?
自分で買ったのよ。
これは自分で買った、ただのアクセサリーなの。
なんでもないの。
こういうときのために、
あなたみたいな人の、
気を引くためのアクセサリーなの。
それなのに、彼は褒めてくれるのよ。
だれか、特別なだれかからの、
プレゼントなのかって。
ばかよね。
ばかなのよ、彼。
そんなわけないじゃない。
あたしみたいな女が、特別なわけがないのに。
優しい男なのね。優しくて、ばかな男。
トルビヨン。
そんなこと言ってくれるくらいなら、
今夜くらい、あたしのこと
好きになってくれてもよかったのに。
今夜くらい。
それで救われる女もいたのよ、トルビヨン。
あたし、いくつになると思う?
あたし、もう堂々とはしていられない歳よ。
もう、裸にはなれない歳よ。
それなのに、トルビヨン。
どうしたらいいのかしら。あなたみたいな、
無邪気な、まっすぐな、ばかな、
そういう男の子に、恋をしてしまったなら。
お願いだから、トルビヨン。
いますぐにここで、
あたしを、求めてよ。
あたしを、欲しがってよ。
わかっているけれど、あなたはそうはしない。
するとしたら、優しいでしょう。
やさしく、そうするんでしょう。
何もなかったら、あたしはそれが嬉しいだろうけど、
今は違うのね。あたしには、そうじゃないのね。
いいわよ、それで。
それでいいわよ。
トルビヨン。
あたしは知っているもの。
あなたが、とてもかわいいってこと。
かわいくて、めんどくさいってこと。
今でも好きよ。
トルビヨン。
キスしてあげるわ、あなたの好きなところに。
勘違いしないでね。
あなたのことが、かわいくてするの。
愛してるわけじゃないから。
安心しなさいよ。
愛してなんかいないの。
かわいいトルビヨン。
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