2008年01月21日

「ことば」という言葉に捧ぐ、愛の詩

tresjoli.jpg

「ことば」は巨大な独房だ。
人類はもう何年も、その中に閉じ込められている。

その場所はしかし、けっして居心地は悪くない。
「これこそが世界だ」と信じてさえいれば、
自分が囚人である、などという
恐ろしい考えを抱くこともなく
安らかに生き、そして死ぬことができる。

「ことば」はまた、タイムマシーンだ。

もしも、「時間」というものがあるのだとすれば。

人間は「ことば」という形なき乗り物を使って、
時間軸の任意の地点へと移動することができる。

誰かが昔を語る時、あるいは未来の展望をのべる時
その人の意識は「ことば」に連れ去られ、時空を旅する。

恐竜時代の過去に
あるいは5分後の未来に
瞬時に降り立った意識は肉体の現在地点を離れ、
その地平を眺めている。

もちろん、「空間」についても同様だ。
「ことば」でできた世界の中であれば、
それが過去だろうが未来だろうが、
人類がまだ見たことのない宇宙の果てだろうが
「ことば」の力で我々は、どこへだってゆける。

「ことば」はまた、人類に仕掛けられた罠である。

マッチをすり、
「ことば」の灯で辺りを照らせば、
いろいろなものが見えてくる。
美しいもの、醜いもの、何もかもが見えてくる。

どこまでもひろがるすばらしきせかいのながめ

しかし「ことば」を握り締めたこの手では、
そのものたちを何一つ、掴むことも
抱きしめることもできないのだ。
髪を撫でて慈しむことも
その涙を拭いてやることも
何も喋らず、唇を寄せたまま
手を握りあって眠ることも叶わない。

瞳の金庫に閉じ込めて、
愛のことばでもささやきかける以外、
すばらしき「世界」のために
我々にはどうすることもできないのだ。

囚人はそれでも
独房を明るく照らさずにいられない。
マッチを擦ればすべてが見えて、
何ひとつ手に入らないと知りながら。

夢まぼろしの世界への恋慕の火柱だけが
その数をふやしていく。











posted by 2/5、地図書きのゆみ at 23:35| 東京 ☀ | TrackBack(0) | 世界の雛形とタイムマシーン制作講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月21日

鏡男と箱庭の夢職人

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鏡男さんと雨を見つめる会を開きました。

本当は「日付またぎ歌謡会」のはずでしたが
日付変更線のこちら側では
粒々とした雨が景色を美しい模様に変えて
漂っているものですから
雨好きの鏡男さんと私は
音楽で雨音を消してしまうのが何だか惜しくなって
神様の髪の毛のように落ちてくる
幾筋もの水の中を
しばらくは二人で
ときどきは一人で
口もきかずに
白い盃を手にそぞろ歩きました。

そんな風にしてしばらく
酔いが醒めるころになると、
夜道に青白い日付変更線が現れました。

顔を見合わせ、せえので私たちが線を飛び越えますと
辺りの水溜りが線の上に集まってきて、
どんどん薄い壁のようにこちらとあちらを隔てていきます。
そして、それはそのまま地上から空に伸びる一枚のカーテンのように
辺りのビルを飲み込むまで高く高くそびえ上がりました。
と突然、魔法が解けたように水のカーテンが
グシャグシャと地上に崩れ落ちてきたのです。
私たちはその流れに飲まれるまま、
金曜日から土曜日へと物凄い力で連れ去られていきました。

勿論、日付も曜日も違う場所に辿り着きますと
雨の姿は跡形もなく消えておりましたが、
代わりにポタポタと
私の頬を伝って涙雨が降り出しましたので
その様子を眺めながら
しみじみ歌を歌うことにいたしましょう
と鏡男さんは言いました。

涙を流す理由など何でもよかったのかもしれません。
ただ、しみじみした気分を味わいたかっただけなのでしょう。
昔の歌を唇にのせると見知らぬ人の過去が胸に迫ってきて
また瞳が溶けていきます。

夜が明けてからも
溶けたものは元に戻りませんでしたので、
鏡男さんに連れられて
六義園というお庭を訪ねて参りました。
緑色を眺めると眼にテキメンに効くとのこと。

お庭の中には
池に浮かぶ半島や、須弥山のごとき峰などが
人の手により作られ鎮座しておりまして、
その小高い地点に登り眼下を見れば
つい先程まで私たちがめぐり歩いていた場所が
「下界」とでも呼びたくなるような
自分とは隔たった、遠い世界に思えてきます。

私たちが眺めているものは
すべて幻なのかもしれませんが
けれど幻だとしたら
こんなにも美しいというのは
いったいどういうことなのでしょうね。
美しいということがこんなにも
はっきりと胸にこたえるというのは
いったいどういうことなのでしょうね。

わかりませんわかりません。
考えたってわかりません。

家に帰って少し眠れば
考え雨も止むでしょう
溶けた眼が治ったら飴玉でも舐めて
こちらの書物をお読みなさい

鏡男さんは異国のお話を集めた小さな本を私の手に握らせると、
深くゆっくり息を吸って、
そのまま大きな桜の木になってしまいました。

後に残された私は、
それでも渡された本がありましたので
決して寂しくは思いませんでした。





posted by 2/5、地図書きのゆみ at 23:46| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界の雛形とタイムマシーン制作講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年08月02日

発明の国・ヒラメキア円卓会議

volver.jpg

紫陽花型の爆弾を作ろうと思ったけれど
紫陽花というのはたちまちに滅びて
ピカピカとはしておられぬ性質らしく
紫陽花型の爆弾を仕掛けたところで
爆発までのしばしの期間
ちっとも枯れていかぬのは
怪しいぞ怪しいぞなんて
顔を覆いたくなるほどに怪しまれてしまうのが
目に見えているので
紫陽花型の爆弾を作るのはもう中止です。

「ものもらい」になった時に備えて
第三の眼があったら便利に違いない。
両眼が赤く膨れ上がって視界10パーセントに
なってしまった時でも
ポケットからサッと第三の眼を取り出して
しかるべき位置にスチャリと装着すれば
こりゃ便利。
見えるぞ見える眼が見える。
一人一球、予備の眼を持とう。
問題なのは
人は何時何処で「ものもらい」に罹るのか、
まったく予想がつかないという事で
あ!かかったな!と思った時には
戸棚の中で長いこと忘れられていた第三の眼は、
ふさふさカビを生やして
毬藻状の物体になっているかもしれぬのです。
そんなふさふさした目玉を見るのは忍びないので
第三の眼はもう用意しなくていいです。

親切なおにいさん。
酔っ払った友人知人を道端で介抱していると
袋状のものを差し出してくれる親切なおにいさん。
コインランドリーで小銭に困っていると
200円と粉末洗剤を恵んでくれる親切なお兄さん。
夜中に恋人と喧嘩をして裸足で外に飛び出すと
何も言わずに朝までそばに居てくれる親切なおにいさん。
おにいさんはいつも同じ迷彩柄の服を着ているので
すぐに「親切なおにいさん」だと分かります。
けれど近頃、
おにいさんがちょっと親切すぎるんじゃないか
という気がだんだん我々はしてきたので
お兄さんの親切は当分は自粛してほしいです。


一人称の貸し出しについて。
一人称を人に貸していたところ結構利子がついて
返ってくるのが意外です。
返却済み一人称を、たまに自分が使おうという段になって
随分と使い勝手がよくなって
言いたいことをツイツイっと言葉にできたりして
何が違うんだろとうんうん考えると
貸し出す前よりも一人称が油を差したみたいに
饒舌でちょっと「うわて」になっているようなのです。
シャンプーなんかも違う種類に変えると
もともとの成分以上に効果がよくでて髪イキイキと評判だけど
一人称もたまに他の人に使ってもらうと
いい刺激になってツヤツヤしてくるんですね。
なので、一人称の貸し出しはまだ続けます。

本日の議題については以上です。
次回の開廷は9年先です。




posted by 2/5、地図書きのゆみ at 18:35| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界の雛形とタイムマシーン制作講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月10日

乙姫大脱走!

grass.JPG

「その時ね、浅間山が爆発したわけよ。」

乙姫はグラスを空にすると、そう呟いた。


あたしはもう、

森の熊が森を一本背負いでもしてるのか、

と思ったんだけど。


思ったんだけど?


「違ったみたい。」

噴火してたわけ?

「そう。」


山が噴火なんて、そりゃもうあたしは初体験だったから。

びびっちゃってさ。

窓ガラスなんか、こうビリビリしびれちゃって。


どうして噴火だって分かったの?

自分の部屋にいたんでしょう?


「電話がかかってきたの。」

もちろん男からよ


ねぇ、


噴火してるけどだいじょうぶ?


草々


なるほど

あたしの家の目の前で

浅間山が噴火してたわけなのね。

で、

男が

だいじょうぶ?

って電話してきてたわけなのね。


あたしはその時

お風呂上りで

全体的にツユだくで

とりあえず

「愚問。」

って答えて切ったのね。


愚問


「だってあなたもそう思うでしょ?」

のん気に電話をしてくるのなら、

先に噴火を止めるべきだわ。

ちょっと気のきいた男なら。


「でも、そのおかげで軽井沢から脱出できたんでしょう?」


まあそうね。


あたしがオシャカにした車のツケも

増やしすぎたイースト菌も

気の利かない男友達も

余すところなく全部が全部、

火山灰の中で

行方不明になっちゃったんだから。


噴火には今でも感謝してる。

噴火に感謝。

あら、

なんだかすこぶる語呂がいい。


「東京はそれで、どうですか?」


すみごこちは。


「住み心地?」


そうね。

地味に派手なところは気に入ってる。

飽きるまではしばらくいるつもりよ。


でも、

正直あたし

自分が気に入った場所って

なぜだか長くはいられないのよ。


「困るわよねぇ。」


そう言って

乙姫は煙草に火をつけると

見てくれのいい男の店員を呼びつけ

平目の刺身を注文した。











posted by 2/5、地図書きのゆみ at 01:08| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界の雛形とタイムマシーン制作講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月07日

美しい星

衣装.bmp


パパは火星人。

ママは木星人。

ぼくは水星人。

いもうとは金星人。


ぼくたちは、

地球、

という物語の中に

暮らしている。


地球、

では、

ぼくたちは

地球人のふりをして、

切符を買ったり、

食卓を囲んだり、


夜明けの暗闇に耳をすませながら、

空にぶらさがっている、

ふるさとの姿に、

心を焦がしたりしている。


物語を終わりにしたいという、

誰かさんの絶望が、

大陸を焼き、

海洋を乾かし、

すべての名前ある、

物質たちから、

その名を盗み去るような、

爆発を起こさぬように、


ぼくたち4人は、

物語の内側で、

美しい星に、

祈りを捧げる。


いつか、

このおとぎ話の星から、

円盤に乗って、

抜け出す日のことを、

心に描きながら。


描いた先の軌道に、

それぞれの物語が

輝いているのだと、


みずからの存在が、

その証拠の品なのだと、


裏づけのない物語に、

裏づけをしないことで、

信頼しようとする、

愚直な

勇気。


その愚かしい勇敢こそが、

この美しい惑星を動かしている。











posted by 2/5、地図書きのゆみ at 16:10| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界の雛形とタイムマシーン制作講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする